こんにちは。
今回は、中国語の方言の内、声調の種類が最も多い言語、博白話をご紹介します。
博白話ってどんな言語?
話されている地域
博白話は、中国・広西チワン族自治区の玉林市にある博白県で話されています。
博白県周辺では、広東語方言の他に、客家語が話されている地域もあるようです。
博白話最大の特徴:声調
博白話の最大の特徴は、声調にあるといっても過言ではありません。
普通話の声調は4つ、広東語広州方言の声調は9つ(パターンとしては6つ)あることは有名ですが、
この博白話の声調は、なんと10個もあります。
そして、この声調の数は、中国語の数ある方言の中でも最も声調の数が多いとされています。
なぜこんなにも数が多いのかというと、「四声」が関係してきます。
「四声」との関係
以前の記事で、中国語のは「四声」が基になっていることを書きました。
「四声」というのは、現代中国語(普通話)の「四声」(一声、二声、三声、四声)ではなく、中国音声学でいう伝統的な「四声」(平声、上声、去声、入声)のことです。
中国語の声調は、方言も含めてこの四声を基に成り立っています。
中古漢語に4種類あったこの四声は、声母が清音か濁音かによって分化していきました。これは、濁音が清音に比べて音が低くなりがちだったことからだと言われています。(清濁によって、陰・陽に分かれました。)
普通話の場合
例えば、普通話では、声調は陰平、陽平、上声、去声の4つに分けられています。
そして、その分類は「四声」に当てはめるとこのようになります。
普通話では、入声が消失して、他の声調に置き換わっていることが分かります。
例えば、「日本」の発音をみてみましょう。
普通話では、「ri4 ben3」ですが、昔の発音を知ることができる「広韻」を基にすると、「nit puen」のような発音となります。一つ一つみてみると…
「日」は、「広韻」では、「nit」の発音です。入声(末子音がある音)です。加えて、n-から始まるため、次濁となります。(濁音の中で、鼻音などの対応する清音がない音)
そのため、「日」は、入声・次濁で普通話では去声で発音されます。「ri4」がまさしく去声ですね。
「本」は、「広韻」では、「puon」のような発音です。まず、清音です。そして、「広韻」では、上声に分類されています。
そのため、「本」は、上声・清音で普通話では上声(第三声)で発音されるわけです。
どうでしょう。普通話の声調もしっかりと四声に則っていることが分かります。
博白話の場合
博白話の声調を当てはめるとこのようになります。
どうでしょうか。博白話の声調は、四声がきっちりと陰と陽に分かれていますね。
入声に至っては、さらに上下に分かれています。
入声の上下の分化は、母音が長母音か短母音かによって分かれているようです。
試しに、「日本」の声調を見てみましょう。各漢字の発音までは調べられませんでしたので、同じ玉林市の玉林話の発音に準えてみます。
「日」は、「広韻」では、「nit」のため、先ほどと同じように入声ですが、先ほどと分類が分かれます。玉林話でも「nhat1」のため、短母音であることが推測されます。
そのため、「日」は入声・濁音・短母音で上陽入22で発音されることが分かります。玉林話の発音も当てはめてみると、「nhat22」となるでしょう。
「本」は、「広韻」では、「puon」のような発音です。そして上声に分類されていますので、上声・清音で陰上53で発音されることが分かります。玉林話の発音も当てはめてみると、「bun53」のようになることでしょう。
結果、「日本」は、博白話で「nhat22 bun53」のような発音になるのではないかなと思います。
中国語はとてもシステマチック
いかがでしたでしょうか。
10個の声調を持つ方言、とても興味深い言語だと思いました。
私が中国の方言を勉強する理由の一つに、中国語がとてもシステマチックな言語なのだと実感できることがあります。
上にも挙げたように、中国語の声調は、四声に基づいています。それは声調の数が多い方言だろうと、少ない方言だろうと、変わりません。
博白話は、声調の他にも、発音や語彙等の面で、中古漢語の特徴をよく残している言語で、生きた化石のような言語だとも言われます。
中国南方の方言は、入声が残っていたり、古い語彙が残っていたりと、北方官話(普通話)ではなくなってしまったものが残っているものが多いです。
つまり、方言を知ることで、中古漢語の発音の方法なども知ることができます。
また、その知識を周辺言語に応用することもできます。
これは中国語の持つ、システマチックさがそれを可能にしているのです。
そして、これは普通話だけ勉強していては、絶対に味わえないものです。
どうでしょう。ワクワクしませんか?
ぜひ、中国語をもっと深く学んでいきましょう。