こんにちは。
今回は、日本語の多義語についてのレポートを書きましたので、ご紹介します。
以前、日本語の多義語のレポートについての記事を書きました。
今回は、その続きで、実際に書いたレポートをご紹介します。
動詞「あう」の意味領域分析
動詞「あう」の意味領域の分析をするにあたり、まず「あう」の持つ意味を整理する必要がある。
動詞「あう」の意味整理には、デジタル大辞泉を使用した。デジタル大辞泉では、「会う」と「合う」で項目を分けているが、互いに同語源だとしている。
動詞「あう」の意味は下記の通りとなった。
【会う/遭う】(デジタル大辞泉より)
1 (会う)
互いに顔を向かい合わせる。場所を決めて対面する。
2 (遭う)好ましくないことに出あう。
3 立ち向かう。戦う。
【合う】(デジタル大辞泉)《「会う」と同語源》
1 二つ以上のものが近寄って、一つになる。くっつく。
2 よく調和する。適合する。
3 二つのものが一致する。くい違いがない。合致する。
4 ある基準と一致する。
5 それだけのことをするかいがある。引き合う。
動詞「あう」の基本義
動詞「あう」の意味領域を分析するにあたり、まず基本義を考える必要がある。基本義を考察するにあたり、母語話者が最も基本的な意味を抽出する必要があるが、その根拠として、辞書に記載されている最初の意味を基本義として考えたい。
以上のことから、基本義は下記の通りとなる。
「会う」:互いに顔を向かい合わせる。場所を決めて対面する。
「合う」:二つ以上のものが近寄って、一つになる。くっつく。
「会う」と「合う」の基本義について、共通する意味としては、「二つ以上のものが一つの場所に近寄る」ということであり、本レポートではこの共通する意味をプロトタイプ的意味としたい。この共通する意味は、「合う」に近い意味なのではないかと考える。
(1)いくつもの川が合って大きな流れとなる。(デジタル大辞泉)
この用例のように、二つ以上のものが一箇所に集まるということが、動詞「あう」の最も基本的な意味だと考える。
動詞「あう」の多義的別義分析
基本義の考察にて、動詞「あう」の基本義は、「二つ以上のものが一つの場所に近寄る」こととし、「合う」が基本義に最も近い語だと考えた。
下記にて、その他の多義的別義について分析したい。
5.1 「会う・遭う」の多義的別義
(2)「明日、いつもの場所で会おう」(デジタル大辞泉)
上記の(2)文中の「会う」は、「あう」のプロトタイプ的意味から、「互いに顔を向かい合わせる。場所を決めて対面する」という意味に変化していると考えられる。これは、二つ以上の「もの」から、「人や意志のあるもの」に変化しており、つまり「類」と「種」に基づき、シネクドキー的に派生したものと分析できる。
(3)「事故に遭う」(デジタル大辞泉)
上記の(3)文中の「遭う」は、「好ましくないことに出あう」という意味で使われる。
つまり、これはプロトタイプの「二つ以上のものが一つの場所に近寄る」という意味から、「意志に関係なく、好ましくないものと一つの場所でぶつかる、経験する」という意味にシネクドキー的に意味が変化したものと思われる。
上記の(4)文中の「会う」は、(2)「互いに顔を向かい合わせる。場所を決めて対面する」という意味から、さらに「対戦する」という意味も含まれている。
つまり、互いに顔を合わせて対面し、その後対戦する、というように時間的な隣接性が認められ、(2)から(4)へメトニミー的に派生したものと分析できる。
5.2 「合う」の多義的別義
(5)「配色がよく合う」(デジタル大辞泉)
上記の(5)文中の「合う」においては、「よく調和する。適合する」という意味で用いられている。
これは、「二つ以上のものが一つの場所に近寄る」ことから、「混ざり合う」、「溶け込む」といった意味に変化していると分析できる。
つまり、一つの場所に近寄り、その後混ざり合うというように時間的な隣接性が認められるので、プロトタイプ的意味から、(5)へメトニミー的に派生したものと分析できる。
(6)「気が合わない」(デジタル大辞泉)
(7)「話が合う」(デジタル大辞泉)
上記の(6)、(7)文中の「合う」は、「二つのものが一致する。合致する」といった意味で用いられている。
つまり、プロトタイプ的意味の「二つ以上のものが一つの場所に近寄」り、一つになることから「合致する」ことにメタファー的に意味が派生したものと分析できる。
(8)「寸法が合わない」(デジタル大辞泉)
(9)「答えが合う」(デジタル大辞泉)
上記の(8)、(9)文中の「合う」は、「ある基準と一致する」といった意味で用いられている。
これは、(6)(7)の意味である「二つのものが一致する。合致する」の意味から、「二つのものの内、一方が基準となり、それに一致する」ことを意味するようになったと考えられる。
つまり、(6)(7)の意味から、(8)(9)へメトニミー的に意味が派生したと分析できる。
(10)「合わない商売」(デジタル大辞泉)
上記の(10)文中では「合う」を「それだけのことをするかいがある」という意味で用いている。
これは、「やり甲斐がある一定の基準があり、それに達する」ことを意味しており、(8)(9)の意味と基準を設けているところで共通している。
つまり、(8)(9)の意味である「ある基準と一致」して、その後「やりがいを感じる」ことに意味が変化していると考えられる。
そのため、(8)(9)の意味から、(10)の意味に時間的な隣接性が認められるので、メトニミー的に派生した意味だと分析できる。
6 和語動詞「あう」における漢字の位置付け
上記にて、動詞「あう」の意味領域を分析したが、同時に各意味における漢字の使い方にも違いが見られた。その違いを以下のようにまとめた。
「会う」:人や意志のあるものが、意志を持って向かい合う。対面する。
「遭う」:意志に関係なく、好ましくないものを経験する。
「合う」:物や抽象的な内容が一つになる。合致する。基準に達する。
上にあげた各漢字の意味は、いずれも動詞「あう」が持っている意味領域であり、「会」、「遭」、「合」の漢字は、それぞれの意味を判別しやすくするために書き分けられていることが分かった。
7 結論
動詞「あう」のプロトタイプ的意味は、「二つ以上のものが一つの場所に近寄る」という意味である。その意味から、一方ではシネクドキー的に「人や意志のあるものが、意志を持って対面する」、または「意志に関係なく、好ましくないものを経験する」という意味に派生しており、他方ではメトニミー的に「物や抽象的な内容が一つになる。合致する。基準に達する」という意味に派生していることが分かった。
そして、それらの意味によって、漢字を書き分けていることも判明した。
これらの分析から、日本語和語動詞において、漢字は、和語の持つ意味領域の差を判別しやすくするために非常に有効的に使われていると考えるのと同時に、文の意味を表すための当て字として使用されていることも分かった。